冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 





「リリー様。これからお身体の診察をさせていただきますので、どうかご安心ください」


 リリーが男と一夜を過ごしてから、早二ヶ月という月日が過ぎ去った。

 リリーはあの日以降、王宮内で男をさがしたのだが、今日まで男とただの一度もすれ違うことも叶っていない。

 最初の頃は、男はどこか別の場所での責務を任されたのではと想像もした。

 けれど、あの晩のことをリリーから打ち明けられたソフィアは、そんなリリーの甘い考えを一刀両断して切り捨てた。


『いいですか、リリー様。その男は、自分が犯した過ちに気づき、恐れおののいて逃げだしたに違いありません』


 ソフィアの言い分はこうだ。

 男は、リリーの弱ったお心に付け込み、初心なリリーを弄んだ。


『リリー様が目を覚ましたときに、男がおそばにいなかったというのが何よりの証拠です』


 ソフィアは、あの男……隻眼の衛兵は、とんでもない卑怯者だと断言した。

 嫁入り前の王女と衛兵が、身体を重ね合わせるなど絶対に犯してはならない禁忌。

 ことが公になれば、男はただでは済まされない。

 だから恐れ慄いて、あの場から逃げ出したに違いないと、ソフィアはリリーに告げたのだった。


『リリー様は嫁入り前の身。リリー様が公言できないことも、男は理解していたのでしょう』


 普段は温厚なソフィアが、珍しく怒りを表情に滲ませてそう言ったことが、リリーは今でも忘れられない。

 けれどリリーは内心では、あの男がソフィアの言うような卑怯者であるとはにわかに信じられずにいた。

 自分と同じく戦争を嫌い、子供たちの尊い未来に希望があふれることを願う人。

 真っすぐな男の言葉は今もリリーの脳裏に鮮烈に焼き付いたままで、思い出すと胸が焦がれるように熱くなるのだ。

 
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