冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「あなたはこれから、私たちをどうするつもりなの?」

「……リリーとオリビア。そして、そこの侍女は今から俺が攫っていく」

「わ、私たちを、あなたが攫うですって……?」

「ああ。もちろん、反論も抵抗も許さない。もし、逃げ出そうとすれば、今度こそウォーリック王国に未来はないと思ってもらおう」


 冷徹なリアムの言葉に、今度こそリリーは背筋を凍らせた。

 やはりリアムは、冷酷無比と名高い聖騎士団の騎士団長なのだ。

 自身の意にそぐわぬ行いをしたものには容赦はしない。

 オリビアだけでなく、国を人質にとられたリリーが、そんな彼に反論や抵抗などできるはずもなかった。


(今はただ、この男……リアムに従うほか、私たちに生きる道は残されていないんだわ)


 こちらを見る灰色の瞳が濁って見えて、リリーは苦々しい思いで下唇を噛みしめた。


「わかったわ。あなたの言う通りにします。だからどうかこの子とソフィアの命の保証だけは約束して」


 精いっぱい震えを隠して告げたリリーの言葉に、リリーの背後で腰を抜かしていた侍女のソフィアが、「リリー様……」と涙で濡れた声でつぶやいた。


「そして攫ったとしても、私たちを引き離すことだけはしないでください」

「ああ、いいだろう。きみは今、とても懸命な決断をした。無駄な争いは、命を無駄にするだけだからな」

「――っ!!」


 リアムの言葉を聞いたリリーの心臓が、ドキリと跳ねた。

 たった今、リアムが口にした言葉は、遠い記憶のどこかで聞いたことのある台詞だったのだ。


(あの隻眼の衛兵も、今リアムが言った言葉と同じようなことを――)


 けれど、リリーが答えにたどり着く前に、リアムは三人を引き連れて王宮の外に出ると、聖騎士団の隊員へと彼女たちを引き渡した。


「三人を、連れて行け」


 そうしてリリーたちは身を隠したままで、ウォーリックを去ることとなった。

 燃えた街の外れでは、リアムの瞳の色と同じ灰色の煙が高く空へと立ち昇っている。

 その光景を眺めながら、リリーは祖国の行方を案じる胸を痛め続けた。




 
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