冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 



「それは……とても不思議なお話ですね」


 その日、リリーが一連のできごとを報告すると、ソフィアは難しい顔をして首をひねった。

 ソフィアはリリーに『夢でも見たのではないか』と尋ねるほど驚いていたが、実際リリーもリアムとのことは、心身ともに疲れ果てていた自分が見た夢なのでは?と未だに信じられない気持ちでいる。


「おかーたま! みてー!」


 けれど今、笑顔で庭を駆けるオリビアが抱えているうさぎのぬいぐるみは、間違いなくリアムが買ってきたものだ。

 それは一連のできごとが夢ではないことを示唆していて、リリーの抱いた疑問の色を濃くしていた。


「冷酷無比といわれる騎士団長が、うさぎのぬいぐるみを買ってくるなど……」


 考えられない。ソフィアの言うとおりだ。

 そして、うさぎのぬいぐるみと一緒に届けられたペリドットのイヤリングも、リアムがリリーへの贈り物として買ってきたとは、にわかに信じられなかった。


「ぬいぐるみのことも、イヤリングのことも、私を妻にするという話も……。リアムにもう一度本気なのか尋ねたいけれど、彼はもう三日もここに帰ってきていないものね」


 ふぅ、と息をついたリリーは、今朝の朝食時にローガンから手渡された赤い薔薇のことを思い出した。

 リアムはラフバラ聖騎士団の騎士団長。

 とても忙しい身で、現在は任務のために数日、邸を空けているらしい。

 けれど、そんなリアムからは毎朝必ず、騎士団の隊員によって二種類の花が届けられているのだ。


『リアム様から、リリー様にはこちらの赤い薔薇を。オリビア様には、可愛らしいピンク色のガーベラが届いております』


 届けられた花はローガンが受け取り、朝食時に必ず食卓に飾られた。

 初日に説明をされたときには大層驚いたが、それから三日目を迎えた今朝も、同じように二種類の花が届けられていた。

 
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