破 恋

「あのさ、桜田 杏さんって
知ってる?」
と、私が訊ねると
千里が、少しギクッとして
「····そりゃ、営業事務だから。
    桜田さんが、どうしたの?」
と、言うから
「彼女から、
千里が昨日、私の家に泊まったんです。
と、報告受けたの。
嘘だよね?」
と、訊ねると
千里は、いきなり
「莉子、ごめん。」
と、頭を下げた。

「どういう事?」
と、言う私に
「昨日は、営業部の飲み会で
酔った桜田さんを俺が家まで
送ったんだ。」
「送っただけ?」
「··················」
「千里?」
「俺も飲んでいて····」
「それで?」
「······ご··めん·····」
「寝たんだ」
「··············」
「そう·····わかった。
   そう言うことなんだね。」
と、言い私は席をたつ

食事はしていないが
食事代を支払って店を出た。

直ぐに千里は追い付き
「莉子、本当にごめん。
だけど、俺には莉子だけだから。」
と、必死に言う。

千里が憎くて、憎くて
堪らなかった。

「やめてくれない。
私だけを愛しているなら
他の女性とそんな事には
ならないでしょ
例え、酔っていたとしても。」
と、怒鳴る私に
一瞬、詰まりながら
「····俺は、莉子と別れたくない。
莉子を愛してるんだ。」
と、わけのわからないことを
言ってくる。

「じゃあさ、私が他の男と
浮気しても同じ事言えるの?」
「······それは·····嫌だ····」

「ずいぶんと、勝手なんだね。

私はね、千里との結婚を楽しみに
していたのよ····それなのに·····
これも返すわ。」
と、千里から貰った婚約指輪を
千里に渡そうとするが
千里は、頭をふりながら
手を後ろに隠すから
片手を取り
手のひらにのせ
「さようなら」
と、言って、その場を去った。
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