痛みを知らない僕は…
あの体調を崩した日から俺の体調は急降下をたどっていた。


「んーまた熱上がっちゃったね」


夜になると体温が39度を行ったり来たりし、夜明け前にすっと下がって37度台になる。

仕事に影響の出ない体調の崩し方やなぁなんて呑気に思っとったけど、急激な体温の変化に体も疲れるし、夜中に高熱が出ることでまともに睡眠も取れてない。

歌を歌わせてもらっとる身やから中途半端なもんを世に届けたくないし、ファンに聞いて欲しくない。

そんな気持ちから頑張れとったんやけど


「大毅。病院行かない?」


こんな熱出しといて病院を渋る俺の意見を尊重してくれてた蓮に高熱で汗のかいたおでこに触れながら問われる。

病院は嫌な思い出しかない。

まぁ、いい思い出があるやつなんてそうそうおらんやろうけど、俺は子供の頃からお世話になっとるからどうしても病院って聞くだけで心が沈んで余計に体調が悪くなる。


「ぃゃゃ」


小さく呟いた声は想像以上に小さくて、俺って結構やばいんかなって思ってまう。

視界は白くぼやぼやとしていて蓮の顔も歪んで見える。

どこが痛いとかないのに、心がぎゅっと握られたみたいな感覚に不安が募って、嫌と言った直後に蓮の腕を掴んで行くと言ってしまっていた。



蓮の運転で行きつけの病院まで来た時、入口に担当してくれてる藤井 樹(ふじい じゅり)先生が車椅子を傍らにおいて立っていた。

時間は10時

とっくに病院は閉まっている時間のはずやのに


「蓮くんありがとう」

「いえ、結構やばい感じです?」

「検査してみないと分かんないけどなぁ」


蓮が俺をお姫様抱っこで車椅子まで運んでくれて、座らされると俺の上では先生と蓮の会話が聞こえる。

先生は俺が生まれた時からの担当でこんな感じになることもまぁまぁあったからか、さほど驚いた様子もなく車椅子を押しながら蓮と話しとった。



次に目を覚ますと病院のベッドで腕には点滴のパックが2個ぶらさがっとった。


「あ、起きてるじゃん」

「…先生」

「そんな不安そうな顔しないの
もしかして蓮くんに言わなかった?痛みの分からない自分でも分かる症状について」


図星やった。

熱が出る前から足元が覚束なかったり、一瞬頭の中がぐるっと回ったみたいな感覚になることもあったのに

大丈夫や なんて根拠のない自信で蓮に言わなかった。

熱が出てからも全部熱のせいにして逃げていた。


「大毅。お前の体はひとりじゃ生きられない
それは、小さい頃から言ってるよな」


ベッドに寝転ぶ俺の目線に合わせて屈んで話をしてくれる先生にうんと頷く


「今回はストレス性の熱と貧血あとちょっとした栄養失調だったけど、もしかしたら病気の可能性だってある。」


先生の言葉はいつも俺のための言葉で、俺も先生の言葉に救われる部分もあった

やけど今回は、心もダメやったからか先生の 1人で生きれない が頭の中をぐるぐる回って話の半分も入ってきてなかった。
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