ボーダーライン。Neo【上】
 彼女のマグカップを持ち、僕は小さな卓上へ置いた。幸子はそれに倣い、テーブル前の床へちょこんと腰を下ろした。

 側に向かい合わせのソファーが置いてあるのに、何で床なんだろう、と思うが何も訊かずに水を取りに行く。

「ここ。一人で住んでるの?」

 そうだけど、何故だろう。僕は幸子に視線を投げた。

「もう。カイくんとは一緒じゃないのかなって」

 ーーあ。なるほど。

「うん、そうだね」

 言ってから、ちょっと意地悪を言ってやろうと思った。

「俺は別に、一緒でも構わないけど」

 冷蔵庫を開けて、ペットボトルを取り出した。

「カイは多分、俺と一緒だと嫌がるかなぁ」

「え? どうして?」

 幸子はマグカップを持ったまま、不思議そうに瞬きした。

「うーん……。俺が女を連れ込むから?」

 言ってから、彼女の反応を盗み見る。幸子は真顔で固まっていた。

 キャップを開けて水をひと口飲むと、冗談だよ、と笑ってみせた。

 何度か、上河茜を部屋に上げているので、本当のところは冗談では無いのだが、笑って誤魔化した。

「社長からのお達しで、みんな別々に住むように言われてるんだ。ただそれだけ」
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