九羊の一毛


一瞬温厚な色がよぎった直後、彼が耳元に唇を寄せて告げる。


「今日は絶対抱くよ。もう俺、結構限界だから」

「……えっ、あ、の……!?」

「こっちおいで。――いいことしてあげる」


瞬間、私の体を軽々持ち上げて、玄くんは立ち上がった。
ベッドへ下ろされたと同時、彼の唇が重なる。


「ん、ま、待って……玄くん、」

「やーだ。羊ちゃんが欲しくて頭おかしくなっちゃいそう……」

「ひゃ、ぅ……」


つ、と彼の舌が首筋を撫でた。
綺麗な黒髪からほんのりシャンプーの匂いがして、それに意識が向いた時。


「は……俺とおんなじ匂いなの、やばいね……」

「え、……ん、やっ、」

「……一回で終われなかったら、ごめん」


苦しそうに零す彼が、子供のように映った。堪らずその頭に手を伸ばして、努めて優しく撫でる。


「うん……いいよ」

「羊ちゃん、」

「玄くんの好きにして、いいよ」


時折自分でも驚くくらい、たかが外れた自分が出てくるんだ。でもそれはきっと、彼の隣にいるから。どうしようもなく、愛しいからなんだと思う。


「……ずるい、」


きゅ、と眉根を寄せた彼が頬を赤らめる。
余裕のなさそうな、噛みつくようなキスが降ってきて。そこからは、彼の熱に呑み込まれた。

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