九羊の一毛


手をひらひらと振って名乗り出ると、「津山ありがとう」と坂井は安堵したように笑った。

実は去年、保健委員をやっていた。理由は単純明快、ジャンケンに負けたからだったけど。
そんなにやる人がいないんなら、どうせ仕事は覚えてるしまあいっか。そんなノリで引き受けた。


「あとは文化委員だけど……」


坂井の言葉に、明らかに空気が重くなったのが分かる。

何を隠そう、文化委員はその仕事量の多さから毛嫌いされる委員会ナンバーワンだ。俺が保健委員に名乗り出たのも、確実に文化委員を避けられるというもう一つの理由があったからだった。


「お、俺、ちょっと厳しいかも。部活あるし、女子の方に迷惑かけるしさ……」


おずおずと申し出たのは、野球部の男子だ。
うちの高校の野球部はかなり強くて、練習も朝と夕方、毎日みっちりあることで有名だった。

俺も、俺も、と次々に手が挙がる。今更ながら気が付いたが、このクラスは野球部の割合が多い。


「確かに野球部に任せるのは酷だよな。分かった。じゃあ後は……」


坂井がプリントを眺めながら眉尻を下げた。その視線が動く。


「狼谷」

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