九羊の一毛


帰る、と言い出した彼女に、「白さんの代わりに俺と遊んで」と頼み込んで、今に至る。かなり渋られたが、最終的に了承してくれた。

俺の問いかけに西本さんは頷いて、それから遠慮がちに口を開く。


「……でも、甘すぎるのは好きじゃない」

「そっか」


そっかって何、俺! 何そのくそつまんない返し!
脳内で反射的に反省会を開催するも、上手い言葉は何一つ出てきそうにない。

緊張している、多分、物凄く。

手に汗を握りながら、次の話題を探しながら。
結局、「西本さんの髪ってさらさらだよね」とかいうキモすぎる話を振ってしまって、その後の空気は最悪だった。

気まずさを拭えないまま歩いて、学校から少し離れた商店街へやって来た。
SNSでよく流れてくる店には知り合いがいそうで避けたかったし、距離があるここら辺まで来てしまえばその心配をしなくて済むと思ったからだ。

しかしそれより何より、ここに来るまでの無言がひたすらに苦痛すぎた。
確かに学校近くのカフェに比べて幾分か歩くが、そこは自分のトーク力で間を持たせようと意気込んでいたのに。


「どこ行くの?」

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