九羊の一毛


彼の両手が私の手をしっかりと握る。


「俺の隣が羊ちゃんなのも、羊ちゃんの隣が俺なのも、何も変わらないよ」


切れ長の綺麗な目。それが穏やかに細まって、私を捉えた。
それに応えるようにゆっくり口角を上げて、大きく頷く。


「うん。これからも、……この先もずっと、よろしくお願いします」


胸の奥が温かい。何だか、幸せすぎてまた涙が出そうだ。
こんなに大事な人に出会えたこと。大事な人の、大事な人になれたこと。奇跡みたいに尊くて、でもこれは紛れもない現実。


「当たり前。もう、我慢しなくていいんだよね……?」

「えっ?」

「ちゃんと我慢したら、全部、いっぱいくれるって言った……」


ぐ、と腕を引っ張られて、静かな熱情が耳朶を打った。


「ちゃんと俺のって刻み込まないと。大学では何も知らない男が近寄ってくるんだから」

「え、あ、」

「もう外しちゃだめだよ? 将来を誓った人がいますって、言わなきゃだからね」


ね? と玄くんが私の薬指にはめられたリングをなぞる。
黙って何度も首を縦に振った私に、彼は満足そうに「いい子」と囁いた。


「――これから一生、よろしくね」

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