AIが決めた恋
「蛍貴、君はその高校を受験しなさい。そして、合格してもしなくても、通うことになった高校の近くのアパートを借りて、一人暮らしをすればいい。あの母親の元で生活していたら、いつか自分を失ってしまう。父さんはそれが怖い。」

正直、僕も母と二人暮しをするのは気が進まない。

「それなら、父さんも僕と一緒に住もうよ。」
「それはきっと、したくてもできない。親権は向こうが取ると思うから。せめて、入学が決まったら、アパートは手配しておく。父さんにはそれくらいしかできない。」

つまり、家族がばらばらになるということだ。

「蛍貴、勝手な父と母でごめんな。」
「そんなことないよ。これでも感謝しているつもりなんだ。」
「ありがとう。嘘でも嬉しいよ。」

そう言って、父さんは優しく微笑んだ。

「それから…、蛍貴、最後に一つだけ約束して欲しい。」
「何?」
「これからは、蛍貴が思ったように、自分の意思で行動して欲しい。」

自分の意思…。
そんなの、要らない物だと思って、とっくの昔に捨ててしまっていた。でも、違ったんだ。
僕は僕の意思で行動してもいいんだ。

「分かった。約束するよ。」
「うん。」

父さんは僕の頭を撫でた。

「じゃあな。」
「何処へ行くつもりなの?」
「さあ。行先はこれから決める。」

きっと嘘だ。こんなに完璧に家出の準備をしていたのに、行先だけ決めていないなんて、明らかに不自然だ。
嘘をついたということは、行先を言いたくないのだろう。

「また会えるよね?」
「強い意思を持っていれば、会えるかもな。」

そう言うと、父さんは僕に背を向けて歩き出した。
敢えて『さよなら』は言わなかった。言ってしまったら、もう本当に会えなくなってしまう気がしたから。
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