AIが決めた恋
「なあなあ、蛍貴。」

本田くんが僕のところへやってきて、耳打ちした。
正直、関わりたくない。

「あいつにも、やってみようと思うんだけど。」

本田くんが小さく指を差した。その方向を僕は見る。

「えっ…。」

教室の1番窓側の後ろから2番目の席。
本田くんの指の先には、“彼女”がいた。
湖川藍(こがわあい)。僕が気になっている少女だ。彼女は誰とも干渉しようとしない。いつも自分の席で読書をしていて、周りのことなど興味が無さそうだ。しかし、そんなところが魅力的だと思う。彼女は今までに見てきた他の女子達とは明らかに違う。異質な空気感を醸し出しているところに、僕は惹き付けられた。

「…駄目。」

反射的にそう答えた。

「え?なんでだよ、ノリ悪いなあ!アイツ、いつも静かで何考えてるのか分かんねーじゃん?意外と面白い反応するかもよ!?」

彼女がどのような反応をするのか、気にならないわけではない。しかし、彼女は他の女子とは違う。他の女子と同じ扱いをしないでほしい。僕にとって彼女は特別だ。だから…

「絶対に駄目。」

そんなことをされて、彼女が喜んで女子アピールをするとは思えない。

「ま、俺はお前に駄目と言われて、やめるような奴じゃないがな!ガハハハ!」

そう言うと、本田くんは彼女の席に向かって、ゴキブリを投げた。そして、それは綺麗な放物線を描き、彼女の机に乗った。
その瞬間、彼女は静かに本を閉じて、ゴキブリの玩具に真顔で視線をやった。それから、3秒程玩具を見つめると、真顔のまま小説を開き、また読書を始めた。
教室中がしんと静まり返る。

「え?え?お前、何で驚かないの?」

本田くんが焦りながらそう言った。

「は?」

彼女は今にも消えそうな小さな、でもとても芯の通った声でそう言った。

「どうして私がこんな玩具の為に驚かなければいけないのですか?」

明らかに本田くんを睨み上げている。

「あ、えっと…」

本田くんも困り果て、微妙な空気になった。その瞬間、朝のHRの開始を知らせるチャイムだけが、教室中に響き渡った。
皆が一斉に席に戻る中、僕は彼女から目が離せなかった。
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