男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子

114、バーベキューイベント

 ロゼリアがバーベキューイベントの企画提案の顔になったのは、ジルコン王子の婚約者だからである。
 前年に夏スクールに参加したE国姫とC国姫が王城に数日滞在することになり、賓客を快くおもてなしをする役目は、婚約者の役目であるとララが声を大きく主張したのだった。
 そこで、ロゼリアは挨拶ついでに二人の姫に歓迎会を兼ねたものを行いたいので何か希望がないですかと、意向を聞くことになった。
 E国C国の姫は顔を見合わせた。鎮守の森の中に泉があったわね、そこで舟遊びをしたいと言い出したのである。

「あそこは舟遊びをするような泉ではございません。ロゼリアさまを困らせて楽しんでいるのでしょう」
 ララに相談すると、ララは姫たちの希望を一蹴する。
「ロゼリアさまはどうご対応されますか?」
「泉で涼を楽しみたいということだから、泉のほとりでバーベキューでもどうかと思っているんだけどどうかな」
「決めるのはわたしではございません。ロゼリアさまがそれでいいと思われるのでしたら、そうしていただき、わたしにできることをお申し付けください」

 ララのどこか突き放したような物言いに、ロゼリアは詳細を自分でまとめなければならないことを知る。
 ひとりでするには荷が重すぎた。
 そこでいつもの女子メンバーで緊急お茶会を開く。

「バーベキューに加えて、ハンモックをもっていって木陰で涼むっていうのはどう?」
 ベラのアイデアである。無駄なことはしたくない。できればのんびりしたい派である。
「食材は料理人に来てもらって焼いてもらうのはいつもだから、せっかくだから自分たちで皮を剥いたりして現場で軽く調理して、男子には炭に火を付けたり火加減の調整をしてもらったりして、男子と協力して一から作り上げるのはどうでしょう」

 ロレットのアイデアである。
 協力して、というところに男子とお近づきになる意図が見え隠れしているが、それはよさそうである。
ロゼリアはアイデアを実現するのに必要なものを書きつけていく。
目を閉じて、泉のほとりでバーベキューしている姿を思い描いてみる。

「器はどうしよう。城から持っていくと重くなるかも。軽くて扱いやすいのがいいんだけど」
「パジャンでは竹製の器が軽くて扱いやすいのでよく使います。誰かに聞いてみて大量に借りれないか聞いてみます」
 レベッカの眼がきらりと輝いた。手に持っていた本はぱたんと閉じられた。
 いつもクールなレベッカにしては、細い目にやる気が見え隠れする。

「それから、ロゼリアさま。わたしたち以外の女子たちにも企画の段階で話をしていた方がいいです。特にジュリアさまとイリスさん。それからジルコンさまにももちろん。ララさまにお話を通してから王妃さまにもお伝えするのはいかがでしょう」
「それは、根回しというもの?」
 ロゼリアには経験が足りない人を動かす政治の分野である。
 ロレットはうなずいた。
「女子が男子を誘い合わせていくことにしませんか?もちろん、E国とC国の姫はお客さまになるわけなので誰かを誘う必要がないということで、わたしたち現メンバーが男子をお誘いしましょう!」
 新たに加わった姫たちは意中の王子に声をかける機会を与えないという作戦である。
 アメリア王妃からは何か特別の差し入れをいたしましょう、と約束をいただくことができた。
 イリスはロゼリアの話をむっつりと聞いていたが、現役の男子を誘うのはわたしたちでというところで、表情が明るくなる。
「なるほどそういうことね、わかったわ。そういうことならわたしも協力させてもらう。バーベキュー後に遊べるものを持っていきましょう!」
 ロレットの意図は確実に伝わったようである。
 ということで、女子たちの思惑が入り混じるバーベキューイベントの企画草案がまとまったのである。


※※※


 その日は朝から空を突き抜けるような晴天で、バーベキュー日和である。
 朝から組は王城からバーベキュー会場となった泉のほとりへ、ララが指示通り寮の前に準備してくれた食材や機材を持ち運んでいた。
「これは一体なんだ!?」
 重い木箱を運んだバルトが箱の中を覗き込み、一番上に載っていたのこぎりを取り上げた。
 ロレットは脇からバルトが驚愕しているものをみる。
「のこぎりに、炭、鉄板ですね」
「それはその通りなんだが。どうしてこんなに、これは長いんだ?」
 バルトがのこぎりに続いて手にした炭は、箱サイズではあるが、通常よりも随分長い。
「切って使って下さいということでしょうね。まだお昼まで時間がありますからせっかくわたしと一緒に早く来てくださったのですからバルトさんには炭を切っていただいて、わたしたちで火を準備することにしましょう。これがなければバーベキューはできませんから、責任重大です。バルトさんができないようでありましたら、わたしがやりますが」
 炭を素手でつかんだロレットに巨体のバルトは完全に気おされている。
 
 食材はジャガイモ、トウモロコシ、玉ねぎ、ピーマン、キノコ類、肉などである。
 食材の箱を開いた女子たちは顔色を変えた。
 イリスは悲鳴を上げる。
 簡易な机を立てるのを手伝っていたロゼリアは慌てて駆け寄った。


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