お見合い回避のために彼氏が必要なんです
「とにかく、私は、お見合いなんてしないから!」

『あら、ダメよ。もう、お願いしちゃったもの。それとも、あんた、お付き合いしてる人でもいるの?』

ん?

これは、いるって言ってしまえば、回避できるパターン?

『連れて来い』って言われても、新幹線で2時間の距離だもん、仕事で無理って言えばいいよね。

「お母さんには、黙ってたけど、私だってちゃんと将来を考えてる人がいるの。心配しないで」

ふふっ
これでもう大丈夫。
さ、晩ご飯のお弁当、食べよう。

私は、携帯片手に、電気ケトルに水を入れる。

『じゃあ、紹介してちょうだい』

うんうん、そう来ると思った。

「そのうちにね。今は、仕事が忙しいから、帰る暇なんてないの」

私は電気ケトルのスイッチを入れる。

『大丈夫。私が会いに行くから』

えっ?

私は、一瞬にして手が止まる。

「い、いいよ、わざわざ。今度、何かの時に連れてくからさ」

私は、慌てて断る。そんなの、困る。

『わざわざじゃないわよ。再来週、そっち行くから』

はっ⁉︎

「何で⁉︎」

『日曜日にね、いつものご近所さんたちと、日帰りで歌舞伎を見に行くのよ。私だけ、先に行くから、土曜日に会わせてよ。昼でも夜でも、お相手の都合に合わせるからさ』

げっ‼︎

咄嗟には、もう言葉も出ない。

『じゃあ、場所と時刻が決まったら、また連絡ちょうだい』

母は、言いたいことだけ言って、電話を切る。

電気ケトルの水は、あっという間に沸騰して保温に切り替わった。私は呆然としながらもインスタントの味噌汁にお湯を注ぐ。

どう……しよう……

今さら嘘でしたなんて、死んでも言いたくない。

そんなことをしたら、絶対にお見合いさせられるに決まってる。

万事休すとは、このことだ。

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