夜空に見るは灰色の瞳
なぜかは知らないがとっくに私が信じたと思っていたらしい男は、驚きに見開いた目で私を見て、それから思い出したように、洗面台に水を溜めるためにしていた栓を抜いた。

ゴボゴボと水が流れていく音を聞くともなしに聞いていた私は、そこでふと思った。不意に思った。

――待てよ。これはもしや、夢ではないだろうか。

最初から最後まで、出会いから今までのことが全部、私が見ている長くてリアルな夢。
なぜ今までその可能性に思い至らなかったのだろうと思うくらい、そう考えると全てがしっくりくる気がした。

だって、魔法や魔法使いが当たり前のように現代に存在しているなんて、やっぱりおかしい。
でも夢ならば、納得も出来る。


「叶井さんは、往生際が悪いですね。別に、何もおかしくはないと思いますよ。叶井さんが今までその存在を知らなかったというだけのことで。……まあ、自分の目で見たものしか信じられないなんて言う人が多い世の中ですから。叶井さんの場合、自分の目で見たものすら信じられないわけですし、そう思いたくなるのも仕方がないことなのかもしれませんね。悲しいことですが」


でもとりあえず、手っ取り早く夢と現実を確かめる方法なら……と、男は手を伸ばして私の頬に指先でそっと触れる。

突然のことに避けることも出来ず、撫でるようなその動きにビクッと肩が跳ねて、体に力が入った。
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