お仕えしてもいいですか?

(ど、どうしよう……)

 木綿子は表面上は冷静を装っていたが、とんでもないパンドラの箱を開けてしまったと内心、激しく動揺していた。

 犬飼の力になりたいと望んだのは決して嘘ではない。悩み事なんて大抵が仕事か人間関係に絞られる。完璧人間に見える犬飼にも悩み事のひとつやふたつあるだろうと安易に相談に乗ると大見得を切ったのが間違いだった。今更悔やんでも後の祭りだ。

 まさか、自分に仕えたいがために悩んでいるなんて普通は考えつかない。

 木綿子に対して腰が低いなと感じることはあったが、まさかその理由が奉仕を望む「お嬢様」だからだとは。

 犬飼自身、この話を木綿子に打ち明けることに葛藤があったのは想像に難くない。しかし、遅かれ早かれこうなっていただろう。

 実際のところ、彼に救いの手を差し伸べることが出来るのは木綿子だけだった。

「わかりました」

 木綿子は満を持して犬飼の要請を受け入れる覚悟をした。

「不束な主人ですがどうぞよろしくお願いします」

 この日を境に木綿子と犬飼と世にも奇妙な主従関係を結ぶことになったのだった。


< 11 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop