キミが教えてくれたこと(改)
前向きに、自分の気持ちを素直に。
簡単そうだけど実際はすごく難しい。
少しずつ晴人に伝わるといいな。
「茉莉花ちゃん!また明日ね!」
「今日はバイオリンだっけ?頑張ってね!」
放課後は習い事のある忙しい百合を見送り、私は机の横にかけている通学用鞄に手をかけた。
机の中にある教科書を鞄に詰めていく。
ふと窓の外を見るとあんなに天気の良かった空が曇り始め、パラパラと雨粒が落ちていた。
「また雨だね」
ふと反対側から声をかけられ顔を左側へ向けると隣の席の麻生君が困ったように眉を下げて言った。
「ね。あんなに天気良かったのに…」
「あの、さ。林さん」
「?」
帰り支度をするクラスメイト達の椅子をひく音が教室に響き、麻生君の声がかき消されている。
麻生君は少し気まずそうに視線を彷徨わせていた。
「よかったら、その…一緒に帰らない?」
その一言に自然と顔が赤くなり、胸の鼓動が早く激しく鳴り響く。
麻生君は何も答えない私を様子を伺いながらこちらを見ている。
「あ、えっと…」
その時、視線の端で晴人が教室を出て行くのが見えた。
「…林さん?」
麻生君に名前を呼ばれ慌てて視線を戻す。
「…ごめん、麻生君。好きな人に、勘違いされたくないから…一緒には帰れない」
ごめんなさい、ともう一度言い頭を下げる。
「…そっか。林さん好きな人いるんだね」
悲しそうに言う麻生君に私は視線を下げたまま頷いた。
「どんな人?同じクラス?」
「えっ…」
突然の質問に思わず顔を上げると麻生君が眉を下げて微笑んでいた。
「ごめん。最後の悪あがき」
悪戯っ子の様に笑っているがなんだか少し切ない笑顔だった。
「…私に、たくさんのことを教えてくれた人。その人がいたから、私、頑張れた。すごく、かけがえのない人」
私の言葉にそっか、と麻生君は笑った。
「うまくいくといいね。誰よりも林さんの事応援してるよ!」
屈託のない笑顔で麻生君は自分の学生鞄を掴み、また月曜日にね!と教室を出て行ってしまった。
いつのまにかほとんどのクラスメイト達は帰宅しており、自分を含め数名しか残っていない教室は先ほどの騒がしさが嘘の様に静かにしとしとと降る雨の音だけが響いていた。