二人の距離~やさしい愛にふれて~
いきなり発狂し出した女性の言っている意味が理解出来なかった。
恭吾は拳で何度も胸を叩かれながら呆然と立ち尽くした。

女性の声が聞こえたのかすぐに中から男性二人が走り寄ってくる。
一人はその女性を制止しようと必死で自分の腕の中に押さえ込んでおり、もう一人は女性から恭吾を引き剥がそうと恭吾を後ろへ引っ張った。

「人殺し!」

そう最後に叫ぶとその女性は声をあげて泣き崩れた。

「理花…死んだの?」

後ろの男性に聞いた。

「いや、大丈夫。さっき電話で言っただろ?意識は朦朧としてるけど戻ったって。」

その言葉に恭吾は足の力が抜けてその場に座り込んだ。
後ろの男性はそんな恭吾の腕を引き上げるように立たせた。
よく見ると初めて来た時にいた警察の人だった。きっとさっきの電話の渡部さんなのだろう。

「ここにいないほうがいい。あっちに移動しよう。」

強引に引っ張られるように通路の奥へと連れて行かれた。
そこにはテーブルと椅子が何個かありくつろげるスペースになっていた。
恭吾を椅子に座らせると渡部はどこかへ電話をしていた。

すぐに電話を切ると恭吾の向かいに座った。

「来ないほうがいいと言ったはずだが?」

怒りの滲んだ声音で言われ恭吾はビクッと肩をふるわせた。

「ただ、ぬいぐるみを渡したかっただけなんです…理花が欲しいって言ってたから。」

恭吾は汗の滲んだ手でぬいぐるみを握りしめていた。
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