冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
むしろ冷たさすら感じられる凛然とした表情で、まるで人質として捧げられた女の生殺与奪の権利を握る皇帝のように、万年筆をこちらへ差し出した。

切なく痛む胸をぎゅうっと押さえる。
……それもそうよね。彼にとっての私は、十億円の株式の副産物に過ぎないのだから。

私は震える手で万年筆を受け取ると、〝妻〟の署名欄に【櫻衣澪】とサインする。

「……書けました」

少し丸みを帯びた流れるような筆跡は、宗鷹さんの威厳すら感じられる筆跡と完全に釣り合っていない。
その歪なバランスの悪さは、まるでここに愛がないことを証明しているみたいだった。

婚姻届が受理されたら夫婦になるはずだが、突然すぎて、なんの実感もわかない。

……とにかく、まずは菊永家へ正式にお詫びをして、宗鷹さんとの今後の生活について、話し合いをしなくちゃ。
政略結婚だもの、今後一生別居の可能性だってあり得るし……。
今夜は、とりあえず湊征の家の片付けをして、明日の朝タクシーで実家に帰ろう。

そう考えてから、私が署名するのを無言で見守っていた宗鷹さんの方へ向き直って、万年筆をお返しする。
彼は思いのほか神妙にそれを受け取り、静かに凪いだ表情で懐に戻した。

吸収合併が前向きに進む目処が立ち、安心しているのだろうか。
……その思いは、私も同じかもしれない。
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