ボーダーライン。Neo【中】
「今日、何時に上がるの?」

 あたしは未だに言葉を発せられず、無言で台拭きを片付けた。

「俺はこの後もう仕事が無いから、ちょっと話したいんだけど?」

 もうそろそろ上がりの時間だけど、檜と二人になったりして大丈夫だろうか?

 理性を保てるかどうか、不安になる。

「部屋の鍵。今は持って無いの?」

 あたしは眉間を歪め、仕方なく首を縦に振った。

「……家に。置いてあるから」

「そっか」

 チラリと彼に目を留める。

 檜は小さく微笑み、メニューの写真を指差した。

「焼き肉弁当ちょうだい?」

「……あ。はい」

 いつもの様に、慌ててメモ紙に注文を書き、裏の厨房へ回した。

「……四時半」

「え?」

「あと二十分もすれば、上がりなの」

 あたしは目を細め、作り笑いを向けた。

 目が合った彼は、真顔から一転、頬を緩ませた。

 キッパリと線引きしないといけないと思った。

 あたしは今年、慎ちゃんと結婚する。

 だから檜とは人生を共に出来ない。

 あたしとあなたじゃ……住む世界が違いすぎる。







 お弁当屋さんを後にし、檜に指定された駐車場で彼の助手席に乗り込んだ。

「出来れば今日。鍵を返したいんだけど…家には彼がいるの」

 抑揚の無い声で言い、横目で檜を盗み見た。

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