ビッチは夜を蹴り飛ばす。
Day.11
海外に来てから知り合った人はたくさんいるけれど特段学校で知り合ったトニーにだけ硯くんの様子がおかしくなるのをあたしはなんとなくだけど知っている。
それは前にトニーの話をした時にみんなには見てもらったけど、その時あたしはその異変にちゃんと名前がついてるのに気づいたのに、肝心の硯くんは自分のことなのにきっとちっともわかってない。
だからとっさにトニーとそんな話になったときついた嘘が、今日の一波乱に繋がるなんて誰が予想しただろうか。
「ともだち?」
「う、うん、学校の友だちなんだけど家に遊びに来たいーって言っててさ。なかなか手に入らない語学の本ゲットしたから勉強しよー、って。それが今度の土曜なの」
「偉いじゃん鳴、着実に友だち増やしてて。肝心の語学は全然上達してないけど」
「うるさいなあ」
いいんじゃない、って洗濯物を干しながら硯くんがそう言うからほっと胸を撫で下ろす。おしゃ第一関門突破、と心の中でガッツポーズしてからシャツをぱんぱんしてハンガーを持って待ってる硯くんに渡したら、用意しておいた台詞を間違えないように声に出す。
「硯くん土曜用事あるって言ってたでしょ? 二人で騒いだらうるさいかなーって思って、何時に帰ってくる? いない間に過ごして帰ってくる頃には切り上げるよ」
「別にそんな気回さなくていいよ。帰ってきても適当にしてるし、用事そんな長くないから」
「え、そうなの? な、何時間くらいいない?」
「さぁ…二、三時間くらいかな」
「二、三時間…」
思ったより短いな、ってちょっと思わず半笑いになって冷や汗をかいたのがまずかった。服をぱんぱんするのを忘れて墓穴を掘ったあたしを気がついたら聡い硯くんが見つめてて、あっ、て焦ってほい! て突き出したら白けた目で睨まれる。…まずい。
「…その友だちってさぁ」
「う、うん、」
「男、女?」
「な、なんでそんなこと訊くの」
「へー言えないんだ」
「言えるけど!」
なにこれ。テストで母親に赤点取ったのがバレた子どもの気分なんだが。ばくばくばく、と早鐘を打つ胸がいってえわと冷や汗を垂れ流しまくってたら明らかに物々しい雰囲気を醸す硯くんを前に声を絞り出す。
「…おとこ」
「名前は?」
「えっ」
「名前」