ビッチは夜を蹴り飛ばす。
 

 す、って顔が傾いてそのまま目を閉じて迎えようとした直後届く「あ———スッキリした!」の声で二人して速攻でそっぽを向く。


「…あれ? どうかした?」

「な! ななななんも! トニーそっち座ってて」


 あたしも行くし、って戻ろうとしたら腕を掴まれてぎゅるん、と身体が回転する。そして振り向いてかち合った目が絶対ここでしちゃいけない眼差しでまずい、って思ったら硯くんが冷蔵庫の扉を開けてあたしに唇を押し当てる。


「飲み物用意してくれてる間にここまでの採点しちゃうねー、えーっと」


 トニーがすぐそこにいるのに唇を舐められて、そのまま優しく確かめるみたいに赤い唇に挟まれてだめ、って目で訴えた矢先に舌で上顎をなぞられた。ひうって思わず声が上がりかけた途端がし、と口を手で塞がれて、かと思ったらそのままちゅ、とおでこにキスされる。…硯くんこんなのめちゃくちゃだ!


「じゃ、トニーと鳴のぶんね」


 ぱたむ、と冷蔵庫の戸を閉めるなりコーラとオレンジジュース、って笑顔で渡されて真っ赤になったまま睨んだら「ばれるから顔直せ」と口パクされた。いやどの口が言ってんだ!?

 必死になっていろんなこと考えて戻ったらやっぱりトニーには「あれ、顔赤いよ大丈夫?」って訊かれたし硯くんは帰るまで結局テーブルに座って第三の目であたしたちを監視してたから、そろそろ本気で拗らせてることに気づいてくれ、って思った。














「じゃあね、メイ! 今日はすっごくたのしかったよ! あ、お兄さんも今度は一緒に外へ遊びに行こう!」

「うん。また遊びにきてね」

「(絶対うそ!!!!)」


 そんなこと思ってねーじゃん微塵もよ、と血走った目で隣を見ながら二人してトニーに手を振って、ぱたんと扉が閉まる。

 …はあぁつっっっかれた。今日、なんかほとんど英語頭に入らなかったし疲れたから早く寝よ、ってくたびれて振り返ったのに首根っこを掴まれてえ、と立ち止まる。

 もちろん、掴んでいたのは無表情の硯くん。


「鳴」

「…はい」

「今日12回ね」

「…待って。待って、待っ…———!」








 そのまま硯くんの部屋に連行されたあたしが硯くんの本当に大切な気持ちに気づかせてあげる話は、またの機会に置いておくことにしよう。







< 167 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop