ビッチは夜を蹴り飛ばす。
 

 けれど秒で手を鷲掴んだ。


「…いやもう撮れ高十分なんよ」

「ま、待って、やっぱちょっとまって、」
「待たない」

 ぐぐぐ、と圧倒的力量差でピアッサーをあてがわれてうわあああああと悲鳴をあげる。そのまま押し倒されてもなお硯くんが真剣にピアッサーあてがってくるからこの体勢でも続けようとしてんのすごいんだが!

「すっすすすずっすずりくんわかった! わかったから起きるから待って!」

 一緒のタイミングで起き上がったからべしゃ、と硯くんの胸に収まる感じになってそのまま顔面を離さないでいたらひどく落ち着いた鼓動が聞こえてきた。あたしとはすごい差だ。こっちはさっきから緊張で心臓が早鐘を打つどころか脇汗びっしょりだってのに。

 それでしばらくしてからゆる、とほっぺたを離すと、横髪を耳に引っ掛けて上目でそろりと硯くんを見る。


「…覚悟できた?」

「う、ん…出来てない」
「いや今の時間返せよ」
「硯くんがご褒美くれたら頑張れる!」
「ご褒美…じゃあ今晩鳴の好きなマカロニサラダにする?」
「うん、」
「…じゃあ」
「あ、ぁああと今日一緒に寝てほしい!」

「…いいけど」

 しゃあなしといった感じで一瞬眉間に皺が寄ったからこれは押せば倒れるとあたしはしっかり味を占め、硯くんの腕に縋りつく。

「硯くんの部屋で」
「…」
「腕枕つき」
「やだよ」

「なんでー!」

 片手で両頬つままれて痛い痛い! って腕を引っ掴む。いいじゃんそんくらい今更じゃんあたしと硯くんの仲じゃんか、ってジタバタしたらべい、と乱暴に解放されてほっぺたがじんじんする。

「そんくらいいーじゃん! 硯くんのけち!」

「そもそもなんでお前のためのピアスを開けるのにご褒美なんだよおれに何の得もないわ」
「腕が鍛えられる!」
「腕枕される気満々なの何」

 しないから、って何故か首を掴まれながら3、2、1でいく、って言われてこくこくと頷くと深呼吸する。わかった3、2、1ね。おけ。

「はい! ではお願いします!」
「3」

「ア—————————!!」


 ブツ、と明らかに皮が貫通する音がして後ろにのけぞって悶絶する。一瞬とはいえ感じたことのない感覚と衝撃に倒れ込んで震えてたら完了、て言われてそうか。開いたんかピアス、やった、そうか…っていやちがう!

「2と1は!!」

「そこまで待ったら絶対また嫌がるじゃん」
「嫌がらなかった! 嫌がらなかったよあたし!」
「次右耳」
「馬乗りになるのやめて——————!!」


 嫌だあああああとあげたあたしの断末魔の雄叫びはその後建物中に響き渡り、のちに大家のマリーおばさんや隣の家の住人が何事かと駆けつけるまでの大騒動になったとさ。


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