ビッチは夜を蹴り飛ばす。



 硯くんんんんんんんんんんんん!!


 なんで。なに。なんなの! ずっと連絡してんのに全然返信来ないじゃん!!

 隠れて後ろ手で触るスマホは操作しづらく、明るさ調整も特段一番真っ暗にしたから闇夜に浮き彫りにはならないけど発信履歴27回は確かにこの目がしかと見た。
 だと言うのに返電は愚かたった今送った発信すらも応答なく発信履歴だけがまた一回追加されてはぁあ、と泣きそうな声が出る。


 あのあと。

 黒のワゴンから降りてきた栃野(とちの)の仲間と思しき数人の男たちに有無を言わさず連れられて、どこかわからない場所に来た。

 車に乗った時点で目隠しをされたから自分がどういったルートでこの場所にたどり着いたかわからない。でも複数の男の声と酒、煙草、それらを打ち消す芳香剤? みたいな臭いがごちゃ混ぜになった車内は呼吸をするのも耐えなくて、それから逃れるように意識を手放していたら目隠しを外されて外に突き飛ばされたんだ。

 走った時間は一時間とか、体感ではそれくらい。
 でもそれもあってるかわかんない。



 辿り着いたアメリカっぽいだだっ広い道路にトイレと自販機くらいしかないサービスエリアの駐車場みたいな場所、そこには無数のバイクと数台の車が停まっていて、はじめは不特定多数の男達を前にもう一貫の終わりだ、と思ったけど「かわいーねー」「お腹空いてる?」「フランクフルト食べる?」とかなんか謎の歓迎を受けに受け。

 それを頑なに断っていたけどこんな時にもお腹が減る危機感の無い身体のせいで21時が回った頃に観念してフランクフルトを一個食べた。





 で、深夜3時を回った今、7:3くらいの比率で集まった男女が酒を飲み煙草を吸い、どんちゃん騒ぎを繰り広げている。
 この場所が道から外れた悪が集ううってつけの穴場スポットであるのにはどうも変わりはないみたい。

 入り乱れる人、人、人の中、男同士がたまに殴りあったり、綺麗な女の子たちと笑いながら突然ちゅーしたり、もう訳わからない場所すぎて死にそうだし逃げ出したい。


 硯くんはやくきて、って意味も込めてスマホを連打していたらぐいっ、と肩を引っ張られた。


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