裏切り姫と恋の病







「悪いが、ここまでしか送れねぇな。
 こっから四季の倉庫まで歩いて帰れるか?」


見渡せば草木しかない場所で、走っていたバイクを止める春が言う。


昨日の夜のことを思い出しながら、深く頷く。

昼に雰囲気を変えようとウズウズしている太陽の真下で、元の場所に帰してくれる春に、不思議と胸が熱くなる。


……変なの。


助けてくれたり、送ってくれたり。


昨日から春にはお世話になりっぱなしだ。



春にヘルメットを返して、跨がっていたバイクからおりる。



「……っと。
 そーいや、希乃ちゃん。携帯持ってる?」


「……やめてよその呼び方、そんな可愛いあだ名で呼ばれるキャラでもないし」


「昨日泣いてた女が言う言葉かねぇ……。
 女に弱ってるところ見せられて、可愛くない!って思わない男はいない……!きっとそうに違いない!!」


「今そういう事言ってるんじゃないけど……。
 もうどうでもいいや、好きに呼んで……」





< 73 / 82 >

この作品をシェア

pagetop