夢色花火
ミンミンと昼間ずっと鳴き続けていたセミが鳴くのをやめ、夜のこの町は静かになっている。山に囲まれたのどかな田舎町だ。

カラン、カランと下駄を鳴らしながら、ショートカットの女の子が歩いている。涼しげな水色に美しい百合の花が描かれた浴衣を着て、女の子ーーー夏空結菜(なつぞらゆいな)は親友の雨宮夏未(あまみやなつみ)の家へと向かっていた。

「……これが二人で過ごす最後の夏になるんだよね……」

結菜は星が煌めく夜空を見上げ、呟く。結菜は体があまり丈夫ではないため、整備された病院がある都会へ引っ越すことが決まってしまった。生まれた時から一緒に過ごしてきた夏未とも離れなくてはならない。

『離れちゃう前にさ、いっぱい遊ぼうよ!』

引っ越しのことを結菜が夏未に言うと、夏未は笑ってそう言ってくれた。そして、田んぼや山しかないこの田舎町で川で遊んだり、お祭りに出かけたりしたのだ。今日は夏未の家で花火をする。
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