約束の日まで

「別れよう。」

19歳の春、2歳上の彼氏に振られた。
毎日電話してデートして思い出を沢山作ったのにたった一言でこんなに呆気なく終わってしまうものなんだと知った。
ショックでたまらなかった。初めて嗚咽が出るくらい泣いた。
どんなに好きだったか、
毎日電話をすることがとても楽しくて声を聞くだけで幸せだったことを誰かに聞いてほしくて、私は、知らない人と電話出来るアプリを入れた。
友達ではない、見知らぬ誰かに聞いて欲しかった。

相「もしもーし」
私「もしもし」
相「いくつなの?」
私「19歳です。そっちは?」

プロフィールを話すだけの会話をした。
相談を乗ってくれる人は1人2人3人と電話をしてもいなかった。
そういうもんだよね…やっぱり。と思った。
これで最後にしようと思った。

相「もしもし、こんばんは」
私「もしもし」
相「なんか、悲しそうな声だね、なんかあったの?」

初めて話す人なのに第一声で私の気持ちがわかる人がいるのだと驚いた。話して早く楽になりたくて、彼のことがどんなに好きだったかを聞いてもらった。

とてもかっこよくて私のことを大切にしてくれていたこと。どこにデートに行ってどんな会話をしたか、どんな気持ちで毎日話していたか。
全て話した。彼は、嫌な態度を一つも見せずに
「それくらい好きだったんだね。素敵なことだよ。」と聞いてくれました。

見知らぬ人、顔も年齢も何もかも知らない人に話を聞いてもらって心が楽になった。
「LINE交換しようか。まだまだ辛い気持ちだと思うし、いつでも話聞くから。」
その時は、ラインを交換するくらいならいいと思いました。
私の話を聞いてくれるいい人。それ以上でも以下でもない存在でした。

次の日の夜、やっぱり元彼のことを思い出して悲しくなり、昨日知り合った人に電話しよう。そう思って電話をした。そして、話を聞いてもらった。
3日目、また電話をした。次は、元彼の話ではなく、相手がいくつなのか、どこに住んでいるのか、どんな見た目なのかを話した。
話していくうちにどんな人か気になって仕方がなかった。

彼は、35歳の宮城住み。
私は、19歳の埼玉住み。

ネットだけの関係、私の話を聞いてくれる人、それだけの存在だった。

そして、
毎日毎日電話するようになって会いたくなるほど惹かれてしまった。愛おしい存在になっていた。
電話のアプリでたまたま繋がったことただそれだけのことが運命のように感じた。

私「35歳だったら結婚してる?彼女とかいるの?」
相「うーん。結婚してるよ。」

そうだよね、と思った。

私「だよね!奥さんとか電話してて怒らないの?電話やめようか?」
相「今、〇〇県にいるんだ。里帰りしてて、帰ってくるのは11月ごろかな」
私「里帰り??喧嘩したの?」
相「里帰り出産だよ。今、コロナだから子供にうつさないために11月ごろに帰ってくる」

そうなんだ、子どもが生まれたんだ。奥さんも大変な思いしてるよね。
そう思った。もう電話をやめようと思った。

夜になると彼のことを考えてしまうようになった。いけないことだけれど、電話だけならいいかなと思って電話をした。
お互いのこと沢山沢山話した。元彼のことも友達のことも家族のことも全て話した。

相「会いたい」

そう言われた時、

私「私も。」

そう答えてしまった。
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