心の鍵はここにある

 今回の帰省の目的を果たし肩の荷は降りたものの、外堀を用意周到に埋められている感が否めない。
 直哉さんもだけど、まさか祖父まで私の結婚にまで話を進めて行くとは思っても見なかった。
 荷物を持って病院を出ると、ジリジリと焼け付く日射しとまとわりつく暑さで一気に汗が吹き出してくる。

「なあ、里美。バス止めてタクシー使おうか」

 直哉さんも暑さにやられたらしく、私も素直に頷くと、病院入口付近にあるタクシー会社直通の電話で一台配車手配をした。

 しばらくしてタクシーがやって来た。
 羽田行きの飛行機は十四時二十分発。まだ時間は十分ある。
 直哉さんは道後にあるホテル名を告げた。
 そこは、屋上露天風呂がある所で、ランチ付きで日帰り温泉を楽しむ事が出来るそうだ。
 ランチ付きだから入浴はのんびり出来ないかもだけど、折角だから温泉を楽しもうと提案された。
 ホテルのフロントで、日帰り入浴プランの申し込みをして、レストランへ案内された。

 朝、ロクに食べる事が出来なかっただけに、美味しい食事を五感で堪能し、心身共に満たされた。
 昨日からの緊張もやっと解け、温泉に浸かるため、最上階へと向かう。
 エレベーターの中で、直哉さんが呟いた。

「俺さ、松山に住んでたくせに、道後温泉って入った事ないんだよな」

 地元民あるあるだ。
 そんな私も、子供の頃から松山には夏休みに遊びに来ていたクセに、道後温泉に入浴目的で来た事がない。
 私もそう告げると、やっぱそうだよなとお互いが納得してウンウンと頷く。
 最上階に到着すると、十三時にここでと約束を交わし、男湯と女湯に分かれてお互いが入浴する。

 最上階の露天風呂は、やはり気持ちがいい。
 金土日の夕方から、露天バラ風呂があるそうで次に来る機会があれば、是非それも入ってみたい。
 のんびりと露天風呂に浸かりながら松山市内を高台のホテルの屋上と言う最高の立地から見下ろす形で堪能する。
 時間さえあれば、この後エステとかも体験したい所だけど、残念ながら飛行機の便は変更不可だ。
 露天風呂を満喫して後にすると、脱衣所で着替えを済ませ、洗って濡れた髪の毛をドライヤーで乾かした。

 八割くらい乾かした所でドライヤーを止め、日焼け止めを肌が露出する腕や首回りにもしっかりと塗って、改めて化粧をする。
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