心の鍵はここにある

 改めて、先輩を眺めてみた。
 高校時代、バレーボールをやっていたので、体格はいい。
 身長は、当時百八十センチ近くあったと記憶している。肩幅も広く、胸板も、そこそこ厚い。
 髪の毛は、当時はナチュラルブラックでサラサラだったけど、今は少しパーマをかけているのか、癖毛っぽい感じに変わっている。
 ヘアカラーをしてるのか、当時のナチュラルブラックではなく、ダークブラウンになっている。でも、相変わらず柔らかそうな髪の毛だ。

 意志の強さを表す様な凛々しい眉に切れ長の奥二重は、目力の強さを強調している。
 それに加えてスッと通った鼻筋に、薄い唇。
 全てのバランスが整った、所謂イケメンさんの部類の人が、何を好き好んで私を選ぶのだろうか。

「それよりも、越智って苗字、珍しいですよね。やっぱり愛媛の方では多いんですか?」

 春奈ちゃんが、場の空気を変えようと頑張ってくれた。

「珍しいかな?確かに地元では多いかも。
 多分愛媛でも、今治(いまばり)とか東予(とうよ)の方に多いかな。
 今は市町村合併で狭くなったけど、今治の隣に越智郡(おちぐん)ってある位だから。
 宇和島のある南予(なんよ)では余りないよな?」

 先輩は、私に同意を求めるも、私は転勤族の子供だから、田舎事情をよく知らない。
 だから返事に困る。そんな私を見た先輩は少し淋しそうな表情を見せるも、私を除く三人で会話を続ける。
 今日は、色んな事が起こり過ぎて、キャパオーバーで頭に何も入って来ない。
 そうこうしていると、私のスマホが震えた。

「あ、電話がかかってきたので、ちょっとすみません」

 私はみんなに断りを入れ、この場で電話をさせて貰うことになった。
 場所を移動して通話するにも、座敷を出ても店内は狭いので店の外にまで行かなきゃならなくなる。
 座敷の角に移動して、スマホを見ると……。表示された名前は、『お母さん』。
 多分、私から折り返しの電話もなく、メールの返信もないからだろう。

「……もしもし」

 出来るだけ周りに声が漏れない様に、スピーカーに耳を当てる。
 無駄な努力かも知れないけれど……。

『あ、やっと繋がった。今、電話大丈夫?』

 母の声に、ホッとする自分がいる。
 どれだけこの状況がいっぱいいっぱいなのか、わかってしまい、思わず苦笑いが出そうだ。

「えっと、今、出先で……」

『そう? ならメールは見た?』

「うん。おじいちゃん、大丈夫なの?」

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