心の鍵はここにある

 さつきの助け船にホッとする私を見た先輩は、ごめんと謝りながら私の手を握った。

「何時頃まで時間大丈夫? ご両親と合流するんだろう?」

 運転手の修二くんの問いに、私はスマホを見て時間を確認する。現在九時三十分を回ったところだ。

「午後からなんですけど、時間は特に言われてなくて。
 さつきと一緒って伝えてるから、お昼ご飯はみんなで食べて、それからかな……」

「じゃあ、十三時頃までは大丈夫なんだな? 何処でご両親と合流するんだ? 直さんも一緒に行くんですか?」

 そういえば、両親に挨拶するとか言っていた様な……。本気なんだろうか。
 私の不安気な表情を見て、先輩は優しく微笑んだ。
 その表情は、大丈夫だと言っているかの様だ。

「ああ、折角の機会だからご挨拶だけはさせて貰いたいな」

 先輩の言葉に、嬉しい気持ちがこみ上げて来た。
 両親には、付き合い始めた時に、彼氏が出来た事は報告していた。
 松山出身で高校時代に知り合って、一時期付き合っていた(偽カノと言うのは内緒)事も伝えている。
 ただ、両親は私の言葉を信用していない節がある。
 今の今まで男の人と付き合った事がなく、男っ気すらなかった娘が、見合いが嫌だからと言い逃れに彼氏が出来たと言っているとでも思っているのだろう。
 見合いの話は、祖父が乗り気になっているらしく、相手も祖父の知り合いの方だと言うが、果たしてきちんとお断りして貰っているのか……。
 その不安もあり、今回先輩が無理矢理一緒に帰省してくれた事は、ある意味有り難かった。

 最悪、明日、祖父のお見舞いに一緒に来て貰って祖父に紹介すれば、祖父もお見合いの話は諦めてくれるだろう。
 下手すれば、今日の帰省の時に騙し討ちでお見合いの席に連れて行かれる可能性だってあるのだから……。
 私の考えている事はお見通しなのか、先輩は私にだけ聞こえる大きさの声で話をする。

「仮に今日、見合いの席があったとしても、俺も同席して一緒にお断りしよう」

 先輩の言葉が心に響く。
 この人を好きになって良かったと思う。ここまで大切にして貰えると思ってもみなかった。
 私は先輩の言葉に頷いて、握られた手をそっと握り返した。

「合流の場所、まだ決めてないので連絡入れてみるね」

 私はスマホを取り出すと、母宛にメッセージを送る。

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