モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
そう、なにを隠そう、私は獣化できる能力を持っているのだ。
 この能力は血筋が深く関係しており、メレス家に生まれた子供は約三割の確率で獣化の能力を持って生まれるようになっている。
 私が獣化できることは、学園では誰にも言っていない。エミリーさえも知らない私の秘密だ。というのも、ルミエル国では獣化ができるひとは極端に少ない。広まると奇異の目にさらされることだろう。
 私はなるべく地味に過ごしたいし、注目を浴びたくないので、敢えて隠すようにしていた。

 なぜ小説でモブだった私に、獣化ができるなんて濃い設定があるのかというと――。
 小説内の終盤に、エミリーをいじめるいわゆる〝悪役令嬢〟ポジションのキャラが、エミリーを陥れようとする場面がある。
そのとき、獣化したフィーナが悪役令嬢のたくらみを盗み聞きエミリーに知らせることで、ピンチを回避したのだ。

 私の獣化能力は、きっと悪役令嬢の悪だくみ回避のためだけに、フィーナに付け加えられた設定。だってそれ以外で獣化する場面はなかったし、今考えれば後付け設定だった可能性も大いにありえる。

 でも今はそんなことどうでもいい。こうやって、この能力が役立つときがきたのだから!

 私は倉庫内に戻り、獣化を開始した。私は獣化することにおいてはかなり優秀だったようで、獣化のコントロールは十二歳のころには完璧にできるようになっていた。

 なので獣化するタイミングは自由自在。意志をきちんと保ったまま、ただ姿が――白猫へと変わるだけ。
 ただ、制限時間はある。私の場合、三十分くらいが限界だ。
 好きなところで獣化できるといっても、人間の姿に戻るときに当然衣服は身に着けていないので、場所を考えないととんでもないことになる。両親には、どうしてもという場面以外で獣化することは昔から禁止されていた。

 今がどうしてもという場面かと問われれば……私的にはそうである。

 獣化が終わり、私は白猫へと姿を変えた。
 私はもともとの髪色が白金で、瞳の色は紫だ。猫になってもそれは変わらないままである。だからといって、私がフィーナだということがバレる心配はないけれど。

 少しだけ開けていた扉の隙間から、私はそっと倉庫から飛び出した。
 昼休みは一時間。終わりまであと三十分ほど時間がある。
 私は身軽い体で、あっという間にレジスの近くまで辿り着いた。獣化する前に見たレジスは芝生の上に座っていたが、今は芝生の上で目を閉じている。
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