モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
ヒロインだった公爵令嬢の悪だくみ
『エミリー嬢は、本当にかわいいですね』
 これは、私が何度も言われてきた言葉だ。

 私は、王家とも親交深いルメルシェ家の公爵令嬢として生まれた。
 ひとり娘ということもあって、幼いころから両親だけでなく、周りにいる人間全員からいつも可愛がられ、甘やかされて育ってきた。
 どこへ行ってもいちばんちやほやされる立場にある自分は将来、王家やルメルシェ家より権力のある名家に嫁ぐことは、約束されたことだと思っていた。

『本当に美しい女性は、心も美しいのですよ』と、私の侍女は口うるさく言っていた。子供のころはその意味がわからなかった。少し大人になったとき、その言葉の意味を理解した。
 つまり私の侍女は、私が美しいのは見た目だけだと遠回しに言っていたのだ。ここで侍女の言ったことをきちんと理解し、心を入れ替えよう――なんてことを思うはずがなく、私はこの侍女を両親に言って解雇してもらった。
 侍女の立場で、私に嫌味を言うなんて言語道断。それに私は、自分の心も美しいと思っていた。わがままな部分は女として多少は必要だし、私は少しのわがままくらい簡単にカバーできるくらいの愛嬌を持っている。
 次についた侍女は私の機嫌を常に伺い、なんでも言うことを聞いてくれたので、私のお気に入りだった。名門校のアルベリク王立学園への入学が決まったときも、学園へ連れて行く気満々だった私に、お父様から悲しい事実を知らされた。

「使用人は学園へ連れていけないみたいなんだ」

 どうやらアルベリクは、送り向かい以外で使用人を学園へ連れて行くことを禁止としているらしい。学園では生徒同士で力を合わせることを推進しているとか、よくわからない理由だった。
 侍女を連れて行けないということは、教科書など重いものを運ぶのも、食堂で席を確保するのも、全部自分ですることになる。疲れたときにマッサージをしてもらえないし、髪の毛が乱れたときに梳いてくれるひともいない。
 ――そんなの、絶対に耐えられないわ!
アルベリクには各国の王族や貴族が集まる。私はここで婚約者を見つけるつもりだった。身なりは常に完璧でないと嫌なのだ。
 
 私はお父様とお母様に、侍女を連れて行けないことへの不満をぶつけた。加えて、私はアルベリクに仲の良い知り合いがいない。ひとりで心細い上に、なにか失敗したときに助けてくれるひともいないなんて無理だと言うと、後日お父様が笑顔で私にこう告げた。

「エミリーを助けてくれる友人を入学させることにしよう!」
「……私を助けてくれる友人?」

 お父様は不安を抱える私のために、遠縁の伯爵家の令嬢をひとり、私と一緒にアルベリクに入学させることにしたという。
学費など、かかるお金はすべてこちらが負担するかわりに、私の付き人の役割をこなしてもらう約束をしたそうだ。

「ということは、彼女になんでも頼んでいいのですね?」
「ああいいとも。向こうにもきちんと言っておいた。〝エミリーのそばでサポートをしてあげてくれ〟とな」

 聞けばその伯爵家は、貴族の中でも底辺のところにいて、お金もない貧乏貴族のようだ。そんな身分のちがう令嬢と仲良くするのは最初は嫌だったが、伯爵家という名だけ見れば、実態まではみんなわからないだろう。
 私のお陰で名門アルベリクに通うことができるなんて、彼女からしたら棚からぼたもちどころじゃない。最高の幸運だろう。誠心誠意を込めて、私の学園での侍女としての役割を全うしてもらわないと。
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