モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
 脅しともとれる言い方だと捉えられても構わない。実際脅している。
 エミリーがこのまま〝なにも知らない〟で通すつもりなら、俺にだって考えがある。
 庶民のふりなど今すぐやめて、王族の力を最大限に使って、エミリーの口を割ってやる。
 フィーナの泣きそうな顔が頭に浮かぶたびに、俺はエミリーのことも――自分のことも許せないままだ。

「……レジス、あなたは何者なの? フィーナのプレゼントに買っていた髪飾り。あれ、相当な値がするものよね。一目でわかったわ。あんなもの、庶民が買えるわけがない」

 エミリーが髪飾りのことを覚えていて驚いた。箱を開けたあの一瞬で、値打までわかるとは目ざといやつだ。
 
「わかっているなら話が早い。お前の言う通りだ。俺が本気を出せば、ひとつの公爵家くらいどうにでもできる。……なんならエミリー、お前を退学にしてやってもいいんだぞ」
「! ど、どうしてっ……フィーナのためにそこまで……あんな、どこにでもいる普通の女……!」
 フィーナのような子がどこにでもいてたまるか。俺が愛した彼女は、この世界にただひとりしかいない。
 俺を本気で怒らせたのも、笑わせたのも、悲しませたのも。
 俺が本気になる理由は、全部フィーナだ。

「もう一度聞く。フィーナになにを吹き込んだ?」

 俺は壁際にエミリーを追い詰め、エミリーの顔の横の壁に拳を打ち付けた。ドンッという大きな音に、エミリーの肩が大きく跳ねた。
 観念したのか、エミリーは自分がフィーナに言ったことを、震える声で話し始めた。
 話を聞きながら、俺はエミリーのついた嘘に怒りを覚える。
 ――なんてことを言ってくれたんだ。
 同時に、フィーナに信じてもらえなかった自分が情けなかった。
あのとき、勇気を出して追いかけていれば。〝俺も好きだ〟と伝えていれば、俺たちはすれ違わずにいられたのかもしれない。

「でも、今さら全部知ったところでもう遅いわよ……! フィーナの退学は決定しているし……聞けば、誰もフィーナに会えない状況みたいじゃない。レジスだって、結局フィーナに信用してもらえてなかったのよ! あなたにできることなんて、もうないんだから……!」

 震えながらも、最後まで悪態をつくエミリーを置いて、俺は踊り場を去った。
 壁に打ち付けた拳は、まだ少しだけジンジンとしている。
 一刻も早くフィーナに弁明をし、誤解を解きたい気持ちでいっぱいだった。でも、あれほど傷ついた表情を見せたフィーナのことを考えると、今はまともに話を取り合ってくれない可能性が高い。
 俺は今、なにができるだろう。
 フィーナのために。自分のために。俺たちふたりのために――今すべきことを考えるんだ。

〝もし関係が崩壊するようなことがあっても、俺たちなら大丈夫だ〟。

 あの日、俺が言った言葉が嘘じゃないことを、フィーナに証明するために――。

< 84 / 108 >

この作品をシェア

pagetop