先生がいてくれるなら①【完】


「立花~。数学準備室、行くぞ~」


私と一緒に数学係をやる事になっている倉林君が、お弁当を食べている私の頭をポンポンと叩いた。


「えっ、待って、私まだお弁当食べ終わってないっ」

「おっ、じゃあ手伝ってあげようか?」


私のお弁当に伸びてきた倉林君の手を、美夜ちゃんがペチっと叩いた。


「いてー、何すんだよ滝川~」

「窃盗は犯罪です!」

「残念でした、お手伝いは窃盗ではありませ~ん」

「同意を得ていないので犯罪でーす!」


美夜ちゃんと倉林君がじゃれ合っているうちに私は慌てて残りのお弁当を口に運んで、食べ終わったお弁当箱を鞄に仕舞った。



「倉林君、お待たせ。行こっか」


立ち上がろうとすると、倉林君がスッと手を差し出して「お手をどうぞ、姫」なんてふざけながらニッコリ笑っている。


「あはは、ありがとう。でも私、姫じゃ無いからひとりで立てるよ」


私も調子を合わせてあげれば良いんだろうけど、どうもそう言うのは照れくさくて……。



数学準備室は、特別教室A棟の1階にあるらしい。


去年作られた部屋で、それまでは倉庫とか物置とか、そんな感じだったみたいだけど、特別教室棟の奥であまり用事も無いので私は初めて足を踏み入れるエリアだ。


私の2年5組の教室からは、渡り廊下を渡ったり階段を降りたり……地味に離れている。


そんな数学準備室への道中──。

< 6 / 455 >

この作品をシェア

pagetop