先生がいてくれるなら①【完】

イライラを通り越して最早呆れ返った俺は、車の中でたっぷり立花に説教をすることにした。



すると、次第に反応が無くなる。


それは俺に怒られたから、と言う事だけでは無いようだった。



入院しているお兄さんの具合がかなり悪いらしい。


立花の声は少し震えているように聞こえた。


泣くのを必死に我慢しているのだろう──。



さて、どうしたもんか……。



俺で良ければ話を聞くからと言いかけたが、さすがにそれは余計なお世話だと思い直して「泣きたい時は泣くように」と諭した。



一人で全てを抱え込んでも、何も解決しない。


俺じゃなくていいから、誰かを頼れ。




小さく頷く立花に、言い表すことの出来ない感情が俺の心の中を駆け巡る。


いつかのようにシートベルトを外そうとしているのを制すために掴んでいた立花のか細い手を、俺はゆっくりと離した。



手を離すのが名残惜しい気持ちになるのは、きっと立花が兄を思って悲しそうにしているせいだ、と自分に言い聞かせた──。



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