最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「どうですか? 体調は」
「おかげさまで絶好調です」
「それはよかった」


にこりと微笑んだ彼は、ミーティングスペースで社員と真剣にやり取りしている慧さんのほうを一瞥する。


「ご主人も献身的に支えているようでなによりです。女性に対してあんなにかいがいしく尽くす社長は初めて見ますよ」


感心したような声を聞き、私の口元が緩んだ。

深い付き合いの瀬在さんが言うのだから、きっと慧さんがここまで甘くなることは本当になかったのだろう。自分が彼の特別になれた気がして、ちょっぴり優越を感じる。

でも彼が変わった要因は、恋愛的なものよりも妊娠したことが大きいんじゃないかと思う。


「私もいまだに驚いています。別人のように優しくなって……。慧さんって子供が好きなんですかね」
「意外とそうみたいですよ。でも、子供以上に……」


そこまでで言葉を区切った瀬在さんは、意味深に口角を上げてひとりごちる。


「いや、それは本人の口から言わせないとな」
「え?」


なんだろうとキョトンとする私に、彼は「なんでもありません」と軽く首を横に振った。

そうしているうちにコピー機の前に来ていて、瀬在さんは箱から用紙の束を取り出しつつ、なにげない調子で問いかけてくる。
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