最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
自分の好きなように生きてきた私にとって、グラフィックデザイナーはぴったりだと思う。常識に囚われず、自分の感性を大事にできるこの世界が。

もちろん、仕事の案件ではあまりにも奇抜なものにはできないし、実力はまだまだひよっこ同然だけれど。

そんなふうに考えていたとき、隣から視線を感じた。振り向くと、水槽を見ていたはずの慧さんの瞳がこちらに向けられている。

それがあまりにも優しく、涙はまったく滲んでいないのにどこか泣き出しそうにも見えて、目が離せない。


「……ああ。俺も好きだ」


──瞳に加えて、まるで告白かと勘違いしそうなほど、心のこもった声。

〝デザインが好きだ〟という意味だと理解しているのに、私の鼓動は大きく乱される。それをごまかしたくて視線をはずすと、再び手を取られてゆっくり歩き出した。

今の慧さんも、これまでに見たことのない表情をしていた。いろいろな顔が見たいと望んだとはいえ、温度が伝わってくるような目で、声で、心を揺さぶられるのは困る。

繋いでいるこの手を、永遠に離したくなくなってしまうから。

< 49 / 274 >

この作品をシェア

pagetop