最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「珍しく元気ないじゃん。これ飲むか?」


私の手元にひとつのコップを置き、彼も休憩するらしく右斜めの席に腰を下ろした。私が好きなカプチーノの香ばしい香りが漂い、少し心が落ち着く。

高海は結構気が利くし、世話焼きなところがあって、俗に言う〝オカン系男子〟だと思っている。

彼のその気遣いは純粋に嬉しいので、今も「いいの? ありがと」とお礼を言い、ありがたくもらうことにした。

彼も自分のコーヒーに口をつける。その様子を見た麻那は、パチパチと瞬きをして自分を指差す。


「あれ、私には?」
「一絵のはボタン押し間違えたやつだから、及川の分はない」
「えー」


さらりと返す高海に、麻那は半笑いだ。

確か、高海はブラックが好きだったはず。コーヒーメーカーは何度も使っているのに、ボタンを押し間違えるなんてことがあるかな。

とぼけた彼に私も笑っていると、麻那がどことなく意味深な目を高海に向ける。


「高海くんってひとちゃんには甘いよね~。名前呼びだし」
「なんだよ今さら」


眉をひそめる高海は、「〝松岡〟も〝畔上〟も、どっちも呼び捨てしづらいんだよ」と返した。
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