最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
私を見つめる彼の顔に、安堵の笑みが広がって、再びふわりと抱きしめられた。こんなに穏やかな抱擁ができるなんて、夢みたい。


「もう一度始めよう。俺たちの夫婦関係を」


耳元で温かい声が響き、涙しつつも唇を弓なりにして「はい」と頷いた。

これからも、この腕の中にいられる。切れそうだった糸が結び直されるような安心感を覚え、確かな幸せを実感することができた。

次第に落ち着きを取り戻すと、慧さんがはっとした様子で身体を離し、問いかける。


「具合はどうだ?」
「そういえば、今は大丈夫です。ホッとしたせいかな」
「そうか……。ひとりで病院に行くのも不安だっただろ。ついていてやれなくて、すまなかった」


私の髪を撫でながら申し訳なさそうにする彼だけど、その気持ちだけで救われて、私は首を横に振った。

そうしてふいに思い出す。昨夜の電話での一件を。


「慧さん、昨日は〝ええ女の子がそろった店〟に行ったんですか?」


突然、表情を強張らせた私の問いかけに、慧さんはキョトンとする。
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