背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
「いいや。ピンピンしている」


「はあ…… もう、焦らせないでよ」

 私は肩から力が抜けてため息をもらした。


「とにかく、土曜は見合いだ!」


「だから、行かないって言ってるでしょう!」


「無理だ! 相手の方に返事をしてしまった。私の大切な取引先からの話なんだ。今更断れん」


「そんな、無茶苦茶な……」


 そうだ、おじい様に頼んで断ってもらおう。おじい様も、私の頼みなら聞いてくれるはず。


「そうそう、おじい様が美月のためにって、新しい着物を買ってくださったのよ。おじい様も、張り切っておられたわ」


「うっ……」

 私は、唯一の光を失った気がした。


 ママは、嬉しそうにほほ笑むと、リモコンに手を伸ばしテレビを点けた。
 パパは立ち上がり、キッチンへと向った。戻ってきたパパの手には、缶ビールが二本。パパとママは、プッシュっと缶を開けると、ソファーに寝ころんだ。そして、仲良くバラエティー番組に声を出して笑い出した。
 二人して、裂きイカにお手製のマヨネーズを付けて口にくわえた。


「しかし、美月の作る酒のつまみは、本当に旨いよな」


「料理は上手なのに、片付けがね? いいかげん嫁にもらって頂かないと、誰からも見向きっされなくなっちゃうわ」

 ママは、困ったように眉間に皺を寄せたのも一瞬で、すぐにテレビの画面を見て笑いだした。

 私は、背筋を伸ばしたまま、ソファーに寝ころぶ二人を見つめた……


 見合いなんて嫌!



 三十歳になるから結婚しろだなんて、勝手な話にもほどがある。


 頭の中で文句を並べてみても、回避する方法が見つからないまま、見合い当日を迎えてしまった。
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