約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「The location of the toilet on this floor is difficult to understand. Go straight here……」

(すごーい! 何言ってるのかは全然わかんないけど!)

 最近は小学生から英語の学習が始まるらしいが、愛梨の頃は英語の授業は中学生からだった。中学に入学してたった3か月間では雪哉の英語の実力など知ることもなかった。

 だから雪哉がなめらかな発音で冷静に話すのを目の当たりにして、成長した親戚の子供に感動するおばさんのような感覚を味わう。父に言わせれば、日本語すら怪しい愛梨には純粋に憧れる姿だ。

 どうやら男性の問題は解決したらしく、雪哉と2~3の言葉を交わすと、軽快に片手をあげて立ち去っていった。向かった方向からやはりトイレを探していたと思われたが、愛梨には適切に案内をする事などできなかったので、どちらにせよ助かった。

 雪哉の語学力に感謝していると、こちらを向いた目と目が合った。雪哉は一瞬だけ笑顔になったが、すぐに鋭い視線に変わる。睨まれたと思ってドキリとしたが、雪哉の視線の先にいたのは愛梨ではなく友理香だった。

「友理香」

 感動している場合ではいと言う事は、能天気な愛梨でも流石に気付く。愛梨に向けるのとは違う声の低さ。怒りの中に落胆が入り交じった声音で呼ばれ、友理香の身体がびくっと跳ね上がった。

 今まで愛梨と同じように静観していた友理香の全身から、焦りと困惑を感じ取る。いつものような自信に満ち溢れた輝くオーラはなく、雪哉に呼ばれた友理香は怯えたように弱々しく頷いた。

「愛梨は昼休み? 悪いけど、友理香は連れてくから」
「え、ちょ……! ユキ!?」
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