約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
雪哉に叱られ、友理香はかなり反省したようだった。だから浩一郎の年の功と、愛梨の望みと、雪哉の考えを総合的に鑑みた結果、結局本社への報告はしないことに決めた。
それが良い事なのか悪い事なのかは考えるまでもないが、物事の判断はいつだって状況により変化するものだ。
「愛梨が望まない対応はしないから安心して」
「ん。わかった」
全てを説明しなくても雪哉の考えを察したらしい愛梨が、ほっと息を吐いた。その表情を見て、雪哉もそっと安堵する。
愛梨はいつも優しい。周囲とすぐに打ち解けて、正義感が強くて、義理堅くて、誰にでも笑顔を向けることが出来る。昔から変わらないその優しさを、早く自分だけに向けて欲しいと願うのはわがままなのだろうか。
「やっぱり、彼氏と仲良いな」
「え…?」
「妬ける。俺の方が、愛梨の事好きなのに」
1歩近付いて耳元で囁くと、愛梨はその耳も、顔も、首まで赤く染めて下を向いてしまう。その可愛らしい反応に、また少しだけ満足する。
本当は、少し前から気付いていた。
愛梨はきっと、いや、間違いなく雪哉の事を好いていた。
愛梨の深層に眠る感情に決定的に気付いたのは、資料室で転びそうになったところを助けた時だった。抱き起こした愛梨と見つめ合うと、その瞳はガラス細工のように光を反射し、涙で潤んで揺れ動いていた。
それは紛れもなく『恋する表情』だった。
困った仔犬のように雪哉を見つめて揺れる瞳が、切なく恋焦がれる15年間の歳月を投影しているように感じた。その表情ははじめてキスをした後に見た、15年前のあの日と同じ。愛梨の瞳は雪哉の『約束の答え』を欲していた。
その瞳を見て気付いた。きっと自分と同じぐらい、愛梨も切ない年月を過ごしていた。
15年は――やはり長すぎた。
けれど愛梨は、まだ自分の本当の感情に気付いていない。恐らく認めたくないのだろうと思う。