約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 問い掛けられて、更に変な汗が出た。だが視線を戻して恐る恐るその顔を見ると、友理香は単に興味津々といった様子で、愛梨に対して軽蔑の眼差しを向けているわけではない。少なくとも愛梨と弘翔の関係を壊すような情報は伝わっていない事がわかった。

「そう、だね」
「うん。それなら辻褄が合う」
「えっと、……ごめんね。あの時どう言っていいのかわからなくて」

 愛梨が謝ると、友理香は『ううん』と首を振った。

 けれど愛梨が認めた事で、友理香は気付いたはずだ。雪哉がずっと探してるという想い人の正体に。雪哉が愛梨を好いていると言う事に。

 気まずい空気を察知して縮こまった愛梨に、友理香は恨むでも嘆くでもなく、ただ自分の好奇心を満たすような眼差しを向けて来る。愛梨の方が『それでいいの?』と問いかけてしまいたくなるほど、純粋に。

「愛梨は雪哉のこと、好きにならないの?」

 友理香に猫なで声で訊ねられ、再度声が裏返りそうになる。手から滑り落ちかけた箸をあわあわ掴み直していると、友理香の牡丹のように美しい笑顔がゆっくりと横に傾いた。

「……私には、弘翔がいるから」
「えぇー、泉さんより雪哉の方がイケメンだと思うけどなー」
「え、そこ基準? 弘翔もかっこいいと思うけど……あ、彼女の欲目かな?」

 笑って訊くと、友理香も笑いながら『どうかなぁ』と呟いた。どうやら弘翔の見た目は、友理香のお眼鏡には適わないらしい。やはり外見だけで言うと、どうしても雪哉に軍配が上がる。今のところ、玲子・崎本課長・友理香と雪哉の3連勝だ。

「それに弘翔と一緒にいると楽しいよ?」

 けれど愛梨にとっては、見た目よりも中身の方が大事だと思う。雪哉が愛梨に向ける言葉や眼差しは、強すぎる程に情熱的だ。まるで愛梨以外は何も要らないとでも言うように、甘ったるくて、熱くて、激しい。だから安心感も楽しさも感じない。ただいつも、心臓が苦しいだけだ。
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