約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「愛梨、知らないの。さっきのアイツ、来週から来る通訳の1人だぞ」
「へ…? 通訳…?」
「ほら、新規プロジェクトの。定番ラインと海外向け新商品の販売事業が軌道に乗るまで、派遣で通訳が来るって通達あっただろ」

 弘翔の説明に流されて、愛梨は一瞬頷きそうになる。が、そんな通達は記憶していない。

「今のがプロジェクト専任の河上さん。あとサブで|細木(ほそき)さんって女の人と、|澤村(さわむら)さんっていう男の人が……って、愛梨、社内掲示板見てないの? ちゃんとプロフィール載ってたけど」
「えっ…ぜ、全然…」

 初めて聞く話ばかりに、つい多めの瞬きをしてしまう。どうやら弘翔の言うプロジェクトに関わる『通訳』とやらは、雪哉だけではないらしい。そう言えば先程、弘翔は通訳『の1人』と言った。

 慌てて首を振ると、弘翔は呆れたように笑いながらも、プロジェクトとそれに関わる通訳の説明をしてくれた。

「全員帰国子女で、最低でも3か国語は話せるらしい」
「そ、そうなんだ…」

 弘翔の言葉の中に、知っている情報と知らない情報が混ざっている。社内掲示板など一切見ていないので、弘翔が口にしたほとんどの情報は知らないものだった。

 けれど1つだけ。
 彼らの中の1人、河上雪哉がアメリカからの帰国子女であることだけは、知っていた。
 でも帰国していたことは、知らなかった。まして同じ街にいるとは思ってもいなかったし、通訳の仕事をしている事も一切知らなかった。

 日本に帰ってきて、しかもこんな近くにいるというのに。自分には会いに来てくれなかったのかな。

 そう考えると、急にモヤモヤと胸が苦しくなってきた。
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