約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 駅まで送ってくれるだけだと思っていた雪哉は、そのまま改札に入り、電車に乗り、愛梨の家の最寄り駅で降り、結局家まで愛梨を送り届けてくれた。

 もちろん途中で何度も断ったが、雪哉は愛梨の話をひとつも聞いてくれなかった。少しぐらい人の話を聞いて欲しいと思うのに、抗議の言葉を口にしても雪哉はずっと上機嫌のまま。

「昔も傘さして並んで帰ったな、懐かしい」
「うん。よく傘壊して、お母さんに怒られた」
「愛梨だけだよ。すぐ振り回すんだから」

 雪哉にまた笑われてしまう。それは昔の話で当然今はそんなことはしないが、雪哉には懐かしい思い出らしく話をしているだけで楽しそうだ。

「愛梨は昔から活発な子だったから。明るいのは同じだけど、今はすごく可愛くなった」
「……」

 さらりと呟く雪哉に、また言葉を奪われてしまう。

 こうして褒め言葉や甘い台詞を臆面もなく言えるところが、雪哉の1番の変化かもしれない。中学生の頃の雪哉は、他人に自然に『可愛い』と言うような人ではなかった。口数が少ない雪哉を、同級生は『大人っぽい』『クール』と評価するほどだったのに。

 自然な流れで『可愛い』と言われた照れを誤魔化すために、俯きながら唇を尖らせる。

「それを言うならユキだよ。ユキは昔、物静かな子だったよ?」
「通訳が物静かだったら、仕事にならないだろ」
「それはそうだけど。見た目も中身も昔と全然違うよ。美少年が美男子になった感じ」

 悔しい思いをしたから、やり返してやろうと子供じみた考えが思い浮かんだ。同じように見た目の成長を褒めたら答えに窮すると思ったのに、雪哉には溜息をつかれてしまう。

「それ、愛梨の好みに当てはまってる?」
「へっ?」
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