約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

幼馴染みのいじわるな罠


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「はーー、もーー、疲れるーー!」

 まだ今日の業務は半分しか終わっていない昼休みだと言うのに、既にいつもの数倍は疲れている。

「誰よ、数値入力したの~! 全部1桁ズレてるじゃん…!」
「あはは。愛梨、すごい顔してたぞ」
「だってあのシートすっごい細かいんだもん……。拡大したら端見切れるし、分割すると見てる所わかんなくなっちゃうから、原寸で打ち込むしかなくてえぇ……」

 揚げたてで美味しそうな天ぷら定食を前にしても、疲労を愚痴る言葉が止まらない。珍しく一緒になった弘翔に話を聞いてもらうと、弘翔は笑いながら愛梨を慰めてくれた。

 弘翔はマーケティング部の情報管理課に所属していて、商品管理や顧客情報管理、販売・流通の調整業務を担っている。日中は工場や販売委託先とのやり取りで社内にいないことも多く、昼食時間が被ることは滅多にないが、今日は割と余裕のあるスケジュールで動いているらしかった。

 逆に、データの訂正処理に見舞われた愛梨の方が忙しいぐらいだ。ファイルの詳細を確認すれば誤ってデータを打ち込んだのが誰かなどすぐにわかるが、犯人探しをする時間は訂正作業の時間に回した方が有意義だ。おかげで眼精疲労がひどいけれど。

「肩揉んでやろうか?」
「肩より目がいい…」
「目は潰れるからやめとけば」
「いや、そんな握力MAXに込めなくても!?」

 頬を膨らませると、見ていた弘翔がまた笑い出す。そうやって弘翔がいつものように接してくれるのが嬉しい。別れた直後はこのまま嫌われて、口も聞いてくれなくなったらどうしようかと本気で悩んでいたから。

 顔を上げて目が合うと、弘翔に『ん?』と首を傾げられる。その仕草に、そっと安心する。弘翔はいつも愛梨を安心させてくれる。それは付き合う前から同じで、付き合っている間も、別れてしまってからも同じだった。
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