約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 株式会社SUI-LENの副社長は現社長の息子で、いずれ会社の跡取りになると目されている人物だ。重役たちの中で唯一英語を話せるらしく、雪哉たちのような通訳を必要としないためあまり接点がないと思っていたが、まさかの直接呼び出し。

「ええぇ、ユキー!!??」
「大丈夫。『遊びじゃなくて本気です』って説明したらちゃんと理解してくれたから」
「あ、そうなんだ」

 副社長相手にもソツなく対応できたらしい事に、ほっと安堵する。派遣で来ている外部社員が重役から直接呼び出しを受けるなんて、言葉だけ聞くと相当危うい状況だと思うが、大事に至らなかったならそれで……

「って、ちょっとー!!?? 納得しかけたけど、それもダメだよね!?」
「ん? どこかダメなとこある?」
「いや、だって私……って、そうだ! 私、ユキに弘翔と別れた話してないよね? 何で知ってるの!?」

 副社長との話も大概どうかと思うが、それより愛梨が問い詰めたいのは弘翔との関係が変化したことを何故雪哉が知っているのか。それから昼間の女性社員に対する空気の読めない発言についてだ。

「ああぁ、もうツッコミどころ多すぎて、どこから聞けばいいのかわかんないいぃ…」
「愛梨、愛梨。ちょっと落ち着いて。まず座ったら?」

 自分の家なのに、初めて来た来客に着座をすすめられる不思議な状況。

 けれどあまりに余裕綽々な雪哉にずっと振り回され続けている気がして、言葉を止めるとそのまま力が抜けて座り込んでしまった。雪哉もスーツのジャケットを脱ぐと、愛梨の隣に自然な動作で腰掛けてくる。

「まず副社長と話して、愛梨の会社は社内恋愛にすごく寛容な事がわかった」
「そこはどうでもいいと思う」

 自分の言葉に、自分で頷く。雪哉は愛梨が口にした疑問の数々の中に新しい一石を投じてきたが、それは今すごくどうでもいい話だ。仕事に支障を来さなければ社内恋愛が自由なことは知っていたし、だから弘翔と付き合っていた時もオープンな関係だった。

「あと副社長がすごくゴシップ好きな事もわかった。だから週明けには、会社中の人がこの話を知ってるかもしれない」
「!?」
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