約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 この状況判断の全権を委ねられても、困る。弘翔に余計な心配などさせたくないし、不安にもさせたくない。雪哉と話をしてみたい気持ちはゼロではないが、一方的に『約束』を反故にしてしまった手前、後ろめたさもある。だが玲子の言うようにちゃんとケリをつけた方がいいのも事実だ。

 自分の気持ちに素直になればいい。玲子とのやりとりを思い出したが、今は『弘翔が最優先であること』以外は全てが曖昧で、自分の気持ちすらよく分かってなくて、適切な判断が出来ない。

 だから存在しない4人目の誰かに、その判断を丸投げした。

「………どっちでもいいよ」
「え」
「え」

 自分の意思を手放すと、雪哉と弘翔が同じ音を出した。愛梨も『え』と思ったが、視線を上げると2人が唖然とした様子で顔を覗き込んでいたので、3つ目の『え』は音にならなかった。

「あー、ええと……用件はわかりました。少し愛梨と相談させて下さい」

 数秒間。時が停止していたが、動き出した弘翔がやや強引に話を打ち切ってくれた。

 というより、誰も結論を出せないので、一旦持ち帰るという選択をしてくれた。正直それは愛梨にも有難い提案だった。

「では、これを」

 雪哉はさほど気にした様子もなく、弘翔の目の前に自分の名刺を差し出した。派遣元会社の社名と名前が入った名刺をひっくり返すと、裏には個人の携帯電話番号とメッセージアプリのIDが書かれていた。

 その名刺は全く同じものが、2枚。
 顔を上げた弘翔が、怪訝な顔で雪哉を見つめる。
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