約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「愛梨はまだ好きなの? その、前に言ってた幼馴染みのこと」

 弘翔の言葉に、愛梨は沈んでいた思考からふわりと浮上した。

 弘翔は、わかって聞いている。愛梨が幼馴染みの事をずっと思い続けている事は、前に同期が集まって飲んだ時に話していたので、職場の同期はみんな知っている話だった。

 その約束をあまりに大事にし続けて、花の高校時代や大学時代に、彼氏の1人も作らずに無為に過ごしてきたことも。

「どうかな。離れてからもう15年経ってるし…」

 15年だって。
 自分で言って驚いてしまう。

 愛梨はずっと、雪哉との約束を大事にしてきた。『迎えに来る』と言ったのだから、雪哉はいつか愛梨の元へ姿を現し、もし再会出来たら当然のように雪哉と結婚するんだろうと思っていた。そう信じて、疑っていなかった。

 けれど長い間雪哉との約束を大切にしてきた愛梨も、その想いが永久に報われる事がない事に徐々に気付き始めてきた。

 今日、幸せそうな玲子の姿を見たことも、少しは意識の変化に影響したかもしれない。愛梨は昔からショートヘアばかりで男っぽい見た目をしているが、中身はきちんと女だし、ウェディングドレスに憧れる気持ちももちろんある。

 玲子の花嫁姿を目の当たりにすると、玲子を祝福する気持ちと同じぐらい、今まで信じてきた約束が下らない独りよがりのように霞んでいく気がした。


 純白のドレスに身を包み、知らない国のお姫様のような玲子の姿は、まるで夢物語の一部だった。
 けれど玲子の花嫁姿は紛れもない現実で、それに比べると愛梨の淡い恋心の方がよっぽど夢物語のようだ。現実感がまるで伴っていない事に、気付いてしまったから。

「なんかもう、最近わかんなくなってきちゃった」
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