約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「あれは違うから。愛梨の彼氏に警戒されないため」
「警戒って……そんなこと…」
「愛梨の彼氏は、愛梨の事がすごい好きなんだな。見てればわかる」

 どう切り返せばいいのかと考えあぐねていると、雪哉が少し感心したように呟く。顔を上げて目が合うと、顔が熱くなるのを感じた。

 同じ部署の人は皆、愛梨と弘翔の関係を知っている。けれど他の部署の人や、まして社外の人がみてもそう感じるなんて何か恥ずかしい。

「そ、そうかな…?」
「いや、そこで照れられても、すごい腹立たしいんだけど」

 一瞬遅れて、雪哉の瞳から冷気が放たれたように感じる。愛梨と弘翔の睦まじさを褒めるような言い方だと思っていたのに、急に冷たい口調になるので再び黙る。

 長年コミュニケーションを取っていなかったせいか、意思の疎通が難しい。息が合わないというか、昔のように短い言葉や視線だけで相手の考えがわかる関係ではなくなってしまったようだ。15年という年月を思えば当然の結果かもしれないけれど。

「とにかく、名字で呼ぶのは止めて」
「…ユキ」

 冷たい口調で言われたので、驚き半分怖さ半分といった気持ちでどうにか呟くと、雪哉はようやく怒りを収めてくれた。

「うん。じゃあ行こうか。行きたいとこがあるんだ」

 名前を呼ぶと、怒気を懐に仕舞い込んだ雪哉がくるりと表情を変える。機嫌が直ってくれた事に安堵しながら『どこ?』と訊ねると、雪哉はとんでもない行き先を告げてきた。

「愛梨の実家」
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